神風連事変 11話

(指揮を執っておるのは、貴奴か。あれを叩けば緒戦は烏合の衆、士気は衰えるだろう)

この将校こそ、本城二の丸に駆けつけた与倉聯隊長である。
彼は、近隣商屋より弾薬を掻き集めると、更に小銃部隊を強化させ一層に士気を高める事に務めた。
部下に攻撃を緩めず継続させる中、自身は実に冷静に戦況の見極めに当たったのである。

「あの指揮する男を斃せ。恐らく賊軍の将であろうが」

与倉隊長の命令により、幾人かの砲兵は照準を一所に向けるや、一斉射撃を開始。
多くの隊士らが斃れる中、加屋は怒りを露に更に斬り出そうと刃を身構えたその時。
腹部に何かが突き刺した様な、痛みを感じたのである。
視線を僅かに下げ刃を握ったまま、彼は手を痛む箇所へと添えると、ヌルリと生暖かいものが触れる。見ると銃弾がの腹部を破って貫き、そこから大量に血が滴っていた。
加屋は激高し、視線を戻すとギッときつく敵陣を睨み付けた。

「おのれ!」

加屋は再び両刀握り締めて眼前の営兵を斬り倒し、更に刃を振るわんとしたその時、更なる銃弾が発砲され、腹部急所に二発の被弾。
視界は大きくゆれ、喉の奥がカッと熱く咽返る。加屋は二刀をしっかり手に握り締めたまま、最期を悟るや「弓矢八幡」と叫び、身体を支える事もまま成らぬ様でガクリと膝をつき、前のめりに斃れこむ。

「ああ、加屋先生!」

隊士の今村栄太郎が近寄って彼を揺さぶるが、もはや何も応える事は無かったのである。
加屋に縋り、一時刃を下ろした今村を狙っての銃撃は、戦場で無防備とも言えるその身体を容赦なく貫き若い命は奪われ、身体は加屋に折り重なる様にどさりと崩れ落ちた。

敬神党一党は、斎藤求三郎長老に始まり、副将の加屋霽堅を失っても尚、将帥たる太田黒の元、士気を衰えさせることなく、屍を超え、前進するのであった。
鎮台軍は次第に士気を取り戻し、抱える近代兵器を惜しみなく使い敬神党の一隊を追い詰めて行く。

副将加屋が斃れて後、太田黒が健在であっても彼等の士気は鎮軍に反して悉く落ちていった。
「ええい!怯むな!我等は神兵ぞ!誰ぞ斃れてもその屍を超えて切り崩せ!」
河上彦斎に始まり、今また加屋霽堅という、古くから交わり育った同胞の死は首領たる太田黒にとって余りに衝撃であり許しがたいものであった。
彼は日頃穏和な人物であるが、この時ばかりは眦上げて怒り、自ら剣を掲げ先陣に躍り出る程の気迫と勢いだった。

しげはる

神風連偲奉会運営

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